稲田悦子物語

著・梅田香子 YOKO UMEDA

第21章 結婚と離婚、そして再婚

1946年の8月15日、唐突に終戦した。神風は吹かなかった。 終戦に尽力した外務大臣は、あの東郷いせの父親、東郷茂徳だった。いせは結婚して、軽井沢で双子を出産したばかりだと聞く。 満州でいきなり終戦を迎えた日本人たちは、取り残されてしまう。守…

第20章 戦時下のスケート

日本の新聞には連日、来栖三郎大使の名前と顔写真が載った。 悦子のまわりの大人たちは、 「いっぺんアメリカはんを叩かねばいかんでっしゃろ」 「ナチスドイツがヨーロッパを征服したのだから、日本もバスに乗り遅れないようにせんと」 戦争への賛同する声…

第18章 五輪返上

1937年、正式決定したはずの東京と札幌五輪の開催が、1938年には暗礁に乗り上げつつあった。 とくに札幌五輪のほうはまだ準備どころではなく、微調整に追われていた。 東京で着工していた施設も、鉄不足で中断を余儀なくされてしまった。 欧米の有力…

第19章 戦争の足音    

東京開催の権利を早々に返上した見返りなのだろう。 まもなくラトゥール委員長が、公式見解を明らかにした。 次のヘルシンキ五輪では、大日本帝国とは別枠で満洲国からの出場選手も、受け入れるであろう、と。 これまで日本軍の傀儡政権として、決して認めら…

第17章 スケート留学の夢

四頭馬車に乗った女神ヴィクトリア像、彼女は昔も今も、勝利の象徴なのだ。ブランデンブルク門の上から、美しく微笑みながら歴史を見つめてきた。 かつてナポレオン・ボナパルトのフランス軍に、このベルリンは占領された。この女神は戦利品としてパリに持ち…

第16章 東京オリンピック招へい

226事件の青年将校たちが最後に幕をおろした舞台。それが山王ホテルと地下のスケート場だった。 兵たちは家具を積みあげてバリケードを作っていた。ドアを固定するためにノブに針金を巻きつけてあった。中隊長は憤りにまかせて、日本庭園の木を日本刀で1本な…

第15章 226事件とフィギュアスケート

パリの世界選手権でも悦子は総合10位。この後は、ドイツのミュンヘンでもアイスショーに出演する予定だ。終わると帰国である。待ち遠しいような気もするし、西欧での生活も捨てがたい気がした。 ベルリンにもどって練習をつづけていると、恐るべきニュースが…